多国籍を前提に伝わる仕組みを設計する
翻訳サイネージが支える、製造現場のコミュニケーション

インタビュー対象者
UMCエレクトロニクス株式会社 日本生産本部 埼玉工場
総務グループ
グループ長
初見 綾子 様
総務グループ
梁(リョウ) 韓群 様
技術製造室
SMTグループ
岩戸 浩徳様
技能実習生
レーティ ハン様
導入前の課題
「わかった」が信じられない——多国籍現場のコミュニケーションの壁
UMCエレクトロニクスは、EMS(電子機器受託製造サービス)を手がけており、車載電子機器からOA機器、データセンター向けサーバまで幅広い製品の設計・製造・検査を一貫して請け負っています。グループとしては国内4拠点(埼玉・宮崎・佐賀・神奈川)のほか、中国・ベトナム・タイにも海外工場を展開しています。
埼玉工場では現在、ベトナム・タイ・インドネシアの技能実習生をはじめ、フィリピン、パキスタン、ナイジェリア、中国など多様な国籍の従業員が働いています。中でもベトナム出身者が最も多く、ベトナム人正社員も在籍するなど、多国籍であることは「当たり前」の現場となっています。
しかし、多国籍であることは同時に、コミュニケーションの複雑さも意味します。特に悩みのタネとなっていたのが、「わかった」という返事の信頼性でした。
外国籍の方はわかっていなくても「わかった」という返事をしがちで、本当に理解しているのかがわからなかったんです。だから毎回「じゃあどういうことか説明して」と逆質問して、理解した内容を確かめるようにしていました。
― 岩戸 様
安全教育、機械操作のルール、健康診断の案内、ゴミの分別ルール——伝えなければならないことは多岐にわたります。しかし毎回口頭で説明しても、理解できているかの確認が難しいのも事実です。ベトナム人正社員を通訳として活用したり、先輩実習生から後輩へノウハウを引き継いでもらう「世襲制」に頼ったりと、さまざまな現場の知恵で乗り越えてきました。
また、日本語でのコミュニケーションが難しい場面では、スマートフォンの音声入力による
Google翻訳も活用していました。しかし製造現場特有の業界用語は一般的な翻訳ツールでは適切に翻訳されず、「合う言葉に出会えない」という限界を感じていたといいます。多国籍従業員を前に1言語ずつの翻訳が必要な点、翻訳結果が正確かどうかを確認しにくい点も、課題として積み重なっていました。
インタビューに答えるリョウ様、初見様
そもそも同社では、採用の段階から意図的に多国籍化を進めてきた背景があります。
外国籍従業員の出身国が一つの国に固定化されると、その人たちだけのコミュニケーションが生まれてしまう。だから意図的にいろんな国の人を採用して、お互いに気を使い合いながら理解していく環境を作っています。
― 初見 様
しかし、意図的な多国籍化には別の苦労が伴います。ベトナム一国であればベトナム人正社員が通訳を担えますが、そこにタイやインドネシアの実習生が加わると、共通言語すら存在しない状況が生まれます。英語を話せるスタッフが間に入ることもありましたが、それも場当たり的な対応にとどまります。特定の人材に通訳を頼る構造は、その人が異動・退職した瞬間に崩れます。属人化したコミュニケーションは、現場の脆弱性でもありました。
「多様であること」を選んだからこそ、その先の「正確に伝える」仕組みが切実に必要とされていました。そうした現場で働く一人が、ベトナム出身の技能実習生・ハンさんです。
ハンさんは来日後、毎日独学で日本語を勉強したといいます。勉強の成果もあり、無事に技能試験に合格。3年の実習期間が過ぎるこの夏以降も就労を延長することが決まっています。
彼女は機械工程のほぼすべてをこなすことができるため、「今日はここのラインを頼む」と日替わりで配置されるほどの信頼の厚さです。現在は、後輩の実習生への指導も担っています。
それだけの努力で日本語と業務とを習得したハンさんでも、微妙なニュアンスや業界特有の言い回しは「難しい」と感じると話します。「聞いて意味はなんとなく分かるけれど、正確に理解できているか自信が持てないし、自分の言葉で発することはなお難しい」といいます。どれほど優秀な実習生であっても、そうした苦労は絶えません。
そのことは、インタビューのある場面でも垣間見えました。「これからもっとうまくなりたい工程は?」という問いに言葉が出てこないハンさんを、岩戸さんがこう代弁しました。
自分、話します。話します。
― ハン 様
今彼女がたぶん言いたいのは……人に言われるんじゃなくて、自分で考えてもっと仕事したい、ということだと思います。
― 岩戸 様(ハンさんの言葉を代弁して)
インタビューに答える岩戸様、ハン様
こうした日常的なやり取りだけでなく、月1〜2回の「実習生ミーティング」にも同様の課題がありました。大人数が参加することによる生産ラインへの影響を最小限にするために、このミーティングには各国から代表者が1名出てきてもらうやり方をとっているため、その参加者にしっかりと理解してもらわなければ、他の人に正確に伝達されないリスクがあったのです。
工場内の品質、そして従業員の安全を守るために、言葉の壁を乗り越えるための仕組みが求められていました。
選定の理由
「製造現場に特化している」という信頼——三菱電機での実績が決め手に
翻訳サイネージとの出会いは、製品紹介がきっかけでした。他社との比較検討は特に行わず、紹介を受けてからの導入判断となりましたが、その決め手となったのは「製造現場での実績」でした。
三菱電機さんの工場で実際に使われていて、ノウハウが蓄積されているというところが一番の強みでした。工場ならではの専門用語にも対応できるという点に魅力を感じました。
― 初見 様
他の翻訳ツールと異なる点は、製造・建設といった現場環境に特化していること。そして、スマホからの音声入力による同時翻訳ができること、翻訳した文章をそのままコピー&ペーストして資料に貼り付けられること——これらの機能が、実務での活用シーンと直結していました。
また、折り返し翻訳(翻訳されたテキストを再度日本語に戻して正確性を確認できる機能)が非常に便利だと感じたといいます。業界用語が正しく翻訳されているかを確認しながら使えることで、「伝わっているか」への不安が大幅に軽減されました。
社内決裁のプロセスについては、現場部門・総務部門・情報システム部門が連携して導入を検討しました。「言葉が伝わらないことで生じる品質不良や安全上のリスクは、現場の工夫だけで吸収できる問題ではない」という工場上層部の後押しもあり、導入はスムーズに進みました。
もともと社長がDX化・システム化に積極的な考えを持っていて、そういった文化が下地にあったと思います。
― 初見 様
導入効果
月に数件のミスがゼロに——「見せる」ことで、言葉の壁を超えた
翻訳サイネージ導入の効果として、岩戸さんが真っ先に挙げたのは現場での機械操作ミスの減少です。岩戸さんが担当する製造部門では、ある機械操作の手順について、外国籍従業員が誤解した状態で作業を繰り返してしまうケースが、月に数件発生していました。間違えていても生産ラインは止まらないため、毎回後ろの工程に皺寄せが出てしまう事態でした。
いくら口頭で伝えても、翻訳を介しても、「わかった」というばかりでなかなか改善されなかったといいます。しかし、翻訳サイネージで操作手順を表示したパソコンを持ってその機械のところに行き、直接やって見せながら解説したところ、次からは正確にできるようになったといいます。
機械の操作で誤解していたところがあったんだけど、言葉で伝えてもなかなか理解してもらえなかったんです。でも翻訳サイネージでバッと見せたら、次からはできるようになりました。後ろの工程に影響していたミスが、なくなったんです。
― 岩戸 様
岩戸さんは、「耳から入る情報より、文字として目で見る情報の方が伝わりやすい」と分析します。音声は業界用語や聞き慣れない日本語と混ざると意味を取り違えやすいのに対し、多言語テキストで表示すれば自分の言語で正確に受け取ることができます。
また、工場内では携帯電話の使用が禁止されているため、スマートフォンによる翻訳には制限がありました。パソコンで使える翻訳サイネージは「手軽に持ち歩けるツール」として機能し、ちょっとした場面でも気軽に使えることが大きな強みです。
今日は定時で帰ってください、と翻訳サイネージで表示したパソコンを持って僕が歩き回ったりもするんです(笑)。だから僕がパソコン持って行くとみんな嫌がるんですよ、残業できないって。
― 岩戸 様
「反応が変わった」——実習生ミーティングでの手応え
「実習生ミーティング」でも明確な変化が生まれています。健康診断の案内、会社のイベント、自転車のルール、アパートの困り事など、生活全般に関わる情報を実習生に伝えるこの場では、ベトナム・タイ・インドネシアの3カ国を対象に通訳しながら進める必要があり、以前は準備も当日の進行も大きな負担でした。
翻訳サイネージを導入した現在では、事前に伝えたい内容を入力・翻訳しておくことで、当日は1時間以内にスムーズに終えられるようになりました。そして何より、参加者の反応が変わったといいます。
今までだと反応が薄かったんですよ。でも翻訳サイネージを使うと、うなずいたりする反応が見られるようになりました。ちゃんと通じたんだなという感触があります。
― 初見 様
翻訳サイネージを表示させたPC画面
そのほか、技能実習生向けの技能試験に向けた教材資料など、多言語対応が必要な資料の作成時にも活用しています。翻訳サイネージで翻訳したテキストをそのまま貼り付けることで、効率よく作成できるようになっています。
これからの展望
「伝える」から「伝わる」へ——言葉の壁を超えて、共に成長する職場へ
ベトナム人実習生が活躍している国内の別工場(宮崎工場)では、新たにインドネシア人実習生の受け入れが始まる予定があり、翻訳サイネージの横展開も検討されています。先行して利用する拠点が辞書登録した専門用語を、別の拠点との間で共有する機能もあるため、横展開時もスムーズな立ち上がりが見込めます。
これは、特定の現場・特定の担当者の工夫を、会社全体の仕組みへと昇華させる試みでもあります。
一方、課題も残っています。現時点では業界用語の辞書登録が十分ではなく、翻訳精度に課題が生じることもあるといいます。そのため現場では、文章を打つ際に「業界用語を避けてシンプルな日本語に言い換える」というひと工夫を積み重ねています。事前に入力した原稿をもとに翻訳する「事前原稿運用」の定着が、正確な情報伝達のカギになっていると捉えているといいます。
言葉が通じるって、本人のモチベーションにも影響するんです。自分が逆の立場に立ったと想定して、海外に行って言葉が通じた時の嬉しさを想像してみたら。
― 初見 様
つたない言葉でも、通じたら喜びがありますよね。ツールがあることで、本人の成長のきっかけになるんじゃないかと思っています。
聞いていて分かるけど、発せられない。その部分を文字として伝えられるのはすごくいいと思います。視覚的に見えることで、どの国の方にも伝わりやすいはずです。
― 岩戸 様
翻訳ツールに頼るだけじゃなくて、外国籍従業員にも日本語を覚えてほしい。お互いが努力することが大事だと思っています。
でも翻訳サイネージがあることで、今の子たちは少し心強くなっていると感じます。― リョウ 様
ツールがあれば伝わる、ではありません。
ツールを使いこなす工夫と、お互いが歩み寄る努力。その両輪があってはじめて、言葉の壁は越えられます。それが、UMCエレクトロニクスの現場が体感していることです。

(左から)田中克一様(執行役員 日本生産本部 本部長)、リョウ様、初見様、浪崎彰様(埼玉工場 工場長)、岩戸様
企業概要
UMCエレクトロニクス株式会社
EMS(電子機器受託製造サービス)を手がける製造企業。車載電子機器(重要保安部品)、OA機器、半導体試験装置、ロボット向け機器、データセンター向けサーバ・ストレージなど、幅広い電子機器の設計・部品調達・製造・組立・検査・出荷を一貫して提供する。
https://www.umc.co.jp/