「はい、大丈夫です」を、卒業する。
――翻訳サイネージが変えた、精密板金メーカーの朝礼

インタビュー対象者
平出精密株式会社
会長
平出 正彦 様
代表取締役
平出 琢磨 様
生産技術課
技師
萩原 稔 様
製造スタッフ
(タイ国籍)
ピーポー 様
製造スタッフ
(インドネシア国籍)
リズキ 様
導入前の課題
「はい、大丈夫です」が信じられない――理解度2〜3割の朝礼
平出精密株式会社は1964年創業、長野県岡谷市に本社を構える精密板金メーカーです。
「高度な技術をもって、社会に貢献する」を理念に掲げ、精密板金加工を軸とした製品づくりを行っています。
同社では週に1回、社長講話に加えて品質改善・安全衛生・製造計画などを共有する朝礼を実施しています。その内容はすべて日本語の資料・日本語での発表で進められていました。
2025年5月時点で、同社にはインドネシア国籍22名、タイ国籍12名の従業員が在籍しています。そのため外国籍従業員における朝礼の理解度は平均して2〜3割にとどまり、比較的理解できている人でも6割程度というのが実情でした。
加えて、外国籍従業員は内容を理解できていなくても「はい、大丈夫です」と答えてしまうことが多く、「実際にどこまで伝わっているかが見えづらい」という、多くの現場が抱えるのと同じ課題が起こっていました。
発表者がゆっくり簡単な日本語を話すわけではなく、専門用語も多く出てくるので、正直なところ理解するのは難しかったと思います。
―平出 琢磨 様
日本語勉強会を開いたり、ピクトグラムや画像・動画を使って説明を補ったりと、できる工夫は重ねてきました。しかしそれでも、朝礼で共有される会社方針や安全確認事項といった「言葉そのもの」を正確に届けることには限界がありました。
組み立て工程を担当するインドネシア国籍のリズキさんは、来日した当初を次のように振り返ります。
来たばかりの頃は先輩の日本語が分からなかったですが、マンツーマンで手取り足取り作業を教えてもらったので、徐々に慣れていきました。
―リズキ 様
作業そのものは、隣について手を動かしながら教えてもらうことで、時間をかければ身についていきます。しかし朝礼で伝えられる会社の方針や安全上の注意点は、実演して見せられるものばかりではありません。「体で覚えられること」と「言葉で伝えるしかないこと」との間には、埋めがたいギャップが残っていたのです。
選定の理由
実機を見て決定――展示会での出会いから始まった導入
翻訳サイネージとの出会いは、営業担当者からの紹介がきっかけでした。展示会に足を運び、その場でサイネージが動く様子を確認したことが、導入の判断を後押ししました。
画面に表示される多言語のテキスト、翻訳のスピード、実際の操作感――カタログや説明だけでは分からない部分をその場で確かめられたことで、「これは自分たちが探していたものに近い」と感じられたといいます。
決め手になったのは、実務での使い勝手に直結する機能面でした。事前に用意した原稿をそのままコピー&ペーストして翻訳できる手軽さ、翻訳結果を再度日本語に戻して確認できる「折り返し翻訳」機能による安心感、そして一度の操作で複数言語へ同時に翻訳できる効率性。これらが、朝礼という限られた時間の中で運用する上で欠かせない条件を満たしていました。
こうしたプロセスを経て、2025年2月頃から朝礼での運用が始まりました。
導入効果
理解度100%「今までより分かりやすい」――朝礼の内容が、明確に伝わるように
導入後に行った社内アンケートでは、100%の従業員が「今までより分かりやすくなった」と回答。90%以上が「8割以上理解できた」と答える結果となりました。
朝礼の内容が、以前よりも明確に伝わっていることが確認できました。
― 平出 琢磨 様
外国籍従業員も変化を実感しています。
朝礼の発表者の話をきちんと聞くようになりました。作業をする時の意識も変わったと感じています。
― リズキ 様
タイ人の同僚同士で、朝礼の内容について話すようになりました。
― ピーポー 様
語順や単語に違うところも一部はあり、改善の余地はまだありますが、内容の大筋がきちんと伝わるようになったというのが現場の実感です。
これからの展望
ツールと人の両輪で、安心して働ける職場へ
2025年5月時点では運用が始まってまだ日が浅く、具体的な効果を数字で語れるところまでは至っていませんが、安全・品質・業務効率のさらなる向上への期待は大きいといいます。
同社では、翻訳ツールに頼るだけでなく、従業員自身が日本語を身につけていく取り組みも独自に行っています。会長自ら、製造現場で使う専門用語をテストにしたり、テストで良い結果を出せた従業員を焼肉会というかたちで労ったりなど、遊び心を交えた工夫も重ねてきました。イスラム教の従業員のための礼拝室を設置するなど、従業員一人ひとりの背景に寄り添う姿勢も、その延長線上にあります。
生産技術課の萩原さんは、かつてタイに駐在した経験を踏まえ、次のように語ります。
言葉がよく分からない環境で働くことは、思っていた以上にストレスがかかるものでした。言語の壁を越えたコミュニケーションの重要性は、強く実感しました。
―萩原 稔 様
この経験があるからこそ、外国籍従業員が抱える不安への理解も深いはずです。
翻訳サイネージという仕組みと、従業員同士が歩み寄る努力。その両方があってはじめて、言葉の壁は少しずつ低くなっていく――平出精密の現場は、そう実感しています。

企業概要
平出精密株式会社
1964年創業。戦前の航空機板金を基本技術に持つ精密板金メーカー。
「高度な技術をもって、社会に貢献する」という創業の精神のもと、信頼性と品質を兼ね備えた精密板金加工部品を提供している。
https://www.hiraide.co.jp/
※本記事に記載の内容・数値・役職・運用情報は取材当時(2025年5月)のものです。