「わからない朝礼」をなくす
翻訳サイネージが変えた、外国籍作業員との信頼の作り方

インタビュー対象者
株式会社大林組 某工場 工事事務所
担当所長(工務)
中野 敬史 様
建築担当
前田 翔貴 様
本社DX本部
高度デジタルソリューション
センター戦略企画部戦略企画課
森山 朗成 様※
※翻訳サイネージ導入時は上記工事事務所に所属
導入前の課題
「分からないまま聞いている」——外国人作業員の朝礼、その実態
大林組が手がける某工場の建設現場には、約1,200名の作業員が日々働いています。そのうちの約5〜6%にあたる約70名がベトナム、インドネシア、ミャンマーなどを出身とする外国籍の方々です。
毎朝全作業員が出席して実施される朝礼では、その日の作業計画(キープラン)が大型モニターに映し出され、立ち入り禁止エリアや火気作業の規制箇所、危険箇所の周知が行われます。安全管理の要となる大切な時間ですが、長年にわたってある課題が横たわっていました。
逆の立場に立ったときに、絶対分からんやろなって。日本人同士でも朝礼で伝えるのは難しいのに、まして外国籍の方にはなかなか難しいよね、というのはよく話していました。
― 前田 様
実際に、注意したにもかかわらず守られないケースが導入前に数件発生しており、ヒアリングすると「聞こえていたが意味が分からなかった」という事実が浮かび上がっていました。
この現場では、安全管理を徹底するため統括所長の方針のもと「バディ制」を導入し、日本人と外国人作業員がペアで動くことを推奨していました。しかし朝礼の内容が伝わらなければ、バディがいても限界があります。
「聞いているけど分かってないな」——その感覚を、担当者たちはずっと抱えていました。
翻訳サイネージを使った朝礼の様子
選定の理由
看板の多言語化から翻訳サイネージへ
課題に対して、現場では独自の取り組みも行っていました。ゲート付近の立ち入り禁止や注意喚起の看板と動線案内を多言語に翻訳したものを掲示したり 、本社に依頼して多言語対応の掲示物を作成してもらったりと、できる範囲での工夫を続けていました。しかし、「その日の朝礼内容をリアルタイムで伝える」手段は、翻訳サイネージ導入以前には存在しませんでした。
転機となったのは、統括所長からの一言でした。躯体工事の時期、500〜600名規模の作業員のうち外国籍の方が70名を超え、比率が10%超に達していた頃、「何かいいツールはないか」という問いかけが現場を動かします。
ツールのリサーチを担ったのは、当時入社1年目だった森山さんです。社内の実績データベースや本社のDX部門に頼るのではなく、自力でインターネット検索をし、複数のツールを比較検討しました。
他のツールを見ていると、多言語での発言を各自の画面で個別に翻訳表示するもの が多かった印象でした。朝礼のように1対多数の場面で、複数言語を一画面にリアルタイム表示できるものを探す中で、翻訳サイネージが妥当だと判断しました。
― 森山 様
森山さんからの上申を受けた担当所長・中野さんの反応は前向きなものでした。「やってみてダメなら変えたらいい」という姿勢で、コストに見合う効果が出るかを長いスパンで見ながら、改善を続けていく方針を取りました。大きなことから小さなことまで、毎日絶えず発生する問題に向き合い、根気強く対処していく「現場の文化」が、新しいツール導入を後押しした形でした。
インタビューに答える中野様
導入効果
「原稿運用」への切り替えで、理解度が8割から全員へ
翻訳サイネージ導入後、まず実施したのは外国人作業員へのヒアリングです。リアルタイム音声翻訳機能を使って朝礼を行い、表示されたキープランの翻訳結果が正しく理解できているかを10名超に確認しました。
結果は「8割程度が理解できている」というものでしたが、一方で「意味を自分で解釈しながら読む必要がある」という声も多く聞かれました。建設現場特有の略語(「立ち禁」など)や専門用語、また建設中の建屋という独特の環境における音響の質が、音声認識の精度に影響していたためです。
そこで前田さん・森山さんが取り組んだのが「事前原稿運用」への切り替えです。キープランで伝えるべき項目に合わせた定型文を作成し、日々変わる作業内容や危険箇所等 を「変数」として当てはめていく方式を構築。この運用に切り替えた後に再度ヒアリングを実施したところ、外国人作業員全員が「完璧とは言えないが、理解できる」と回答しました。
定型文を作ってしまえば、変数を当てはめるだけ。1日20分程度で準備できる作業量でした。
― 森山 様
さらに、この「原稿を事前に用意する」という運用が、思わぬ副産物をもたらしました。
1年目の社員が話すキープランの内容と、5〜6年目のベテランが話す内容とではどうしてもレベル差が出てしまう。でも原稿を用意することで、そのばらつきが7割程度は平均化されると感じています。伝達品質の底上げにもつながっているんです。
― 前田 様
朝礼のほか、新規入場者教育や統括所長による面談など、外国籍の方々と直接コミュニケーションをとる場面ではほぼすべてに翻訳サイネージを活用。「直接声を聞けて嬉しかった」という外国人作業員からの反応が、現場担当者の大きな手応えとなっています。
多言語表示された翻訳サイネージの画面
これからの展望
「伝わっているか」を問い続ける
現在はキープランと翻訳サイネージとを2画面(2つのプロジェクター)で表示する構成ですが、「将来的には1つの画面に統合できれば」という声が上がっています。また、キープランのデータをAIに読み込ませ、定型文の生成を自動化するアイデアも検討中です。
実現できれば、準備の手間がさらに減り、伝達品質の維持と負担軽減を同時に達成できると期待されています。
翻訳サイネージは同規模の現場であれば十分なコストパフォーマンスが見込めると評価しており、今後異なる現場に配属された際にも活用を検討したいと話します。
同じ課題を抱える方へ
外国人作業員はこれからも増えていく。分からない朝礼をただ聞かせるのは、彼らにとってもストレスです。伝える側も努力していくべきだし、そのための良いツールを積極的に選んでいきたいと思います。
― 中野 様
やってみて改善して、伝わっているかを大事にする——その繰り返しが大切だと思います。形が整っているかどうかより、ちゃんと伝わっているかどうかを問い続けることが、取り組みを成功させる鍵ではないでしょうか。
― 前田 様
左:中野様 右:前田様
企業概要
株式会社大林組
1892年(明治25年)創業。建築・土木・エンジニアリングから開発・グリーンエネルギーまで幅広く手がける総合建設会社。「MAKE BEYOND つくるを拓く」を企業ビジョンに掲げ、国内外の大規模プロジェクトを通じて安全・安心な社会基盤の構築に貢献している。従業員数9,472名(2026年3月末現在)。
https://www.obayashi.co.jp/※ 本記事に記載の数値・役職・運用内容は取材当時(2026年5月)のものです。